給与や賞与の一部を暗号資産(ビットコイン)で受け取ったら、税金はどう扱われるのか。結論から言えば、受領した時点でその時価が給与所得となり源泉徴収の対象になり、さらにその暗号資産を後で売却・使用したときに譲渡損益が別途生じるという2段階の課税関係になる。本稿はこの「給与を暗号資産で受け取る」ケースに絞って解説する。暗号資産の課税全体像(雑所得・総合課税)は 暗号資産(仮想通貨)と税金 に、売却時の損益計算の具体的手順は 暗号資産の損益計算——総平均法と移動平均法の違い にまとめているので、あわせて参照してほしい。
給与を暗号資産で受け取るとどう課税されるか(受領時=給与所得)
国税庁の「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」は、給与を暗号資産で支払うケースを正面から扱っている(問5-1)。そこでは、労働協約で別段の定めを設けて月々の給与の一部を暗号資産で支給した場合、その暗号資産による支給分も給与所得の収入金額に該当すると明記されている。
FAQの設例はわかりやすい。ある月の給与について、現金200,000円と、支給時の取引価格が50,000円の暗号資産を支払ったとする。この場合、給与の支給額は現金と暗号資産の価額を合計した250,000円となり、この250,000円を給与月額として源泉徴収税額を計算する。
ここでのポイントは、暗号資産部分を「支給時の価額」で円換算して給与に取り込む点だ。FAQは、現金以外の現物給与についてはその経済的利益を評価する必要があるとしたうえで、暗号資産の場合はその支給時の価額で評価すると述べている(関係法令:所得税法28条・36条・183条)。したがって源泉徴収義務者である会社は、現金分と暗号資産分を合算した金額に対して源泉徴収を行い、年末調整・源泉徴収票もすべて円換算額で処理することになる。
つまり、受け取る側から見ると、暗号資産で受け取った瞬間に「その時の時価」で給与収入が立ち、所得税・住民税・社会保険の計算対象になる。相場が下落しても、給与として認識される金額は支給時の時価で固定される点に注意が必要だ。
労働基準法の通貨払いの原則——そもそも暗号資産での賃金支払いは可能か
税務の前に、労働法のハードルがある。労働基準法24条は賃金の支払いについて、通貨払い・直接払い・全額払い・毎月1回以上払い・一定期日払いの5原則を定めている。このうち論点になるのが通貨払いの原則だ。
ここでいう「通貨」は法定通貨(日本銀行券・貨幣)を指すため、暗号資産は原則としてこれに当たらない。従来から銀行振込は労働者の同意を要件とする例外として認められてきたが、2023年4月施行の労働基準法施行規則改正により、いわゆる賃金のデジタル払い(労働者の同意を得たうえで、厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座へ資金移動する方法)が新たな例外として加わった。
ただし、このデジタル払いはあくまで1円単位で現金化できる資金移動業者口座を対象とする制度であり、現金化できないポイントや暗号資産(仮想通貨)は対象外とされている。したがって、労働者(雇用契約下の従業員)に対して暗号資産で賃金を支払うことは、デジタル払い解禁後も原則として認められないと解される。
この整理を踏まえると、暗号資産で「給与等」を受け取る実務上の局面は、労働者性の弱い役員報酬や、そもそも労働基準法の賃金規制が及ばない業務委託報酬(フリーランスへの報酬)などに事実上限られてくる。役員報酬・業務委託の税務上の取扱いはそれぞれ別論点になるため、本稿では従業員給与を中心に据えつつ、区分の違いだけ後述する。
売却時にもう一度課税される(2段階の課税)
給与として暗号資産を受け取ってそれで終わりではない。受け取った暗号資産を後で売却・使用したときに、譲渡損益が別途発生する。ここが暗号資産で給与を受け取る最大の落とし穴だ。
鍵になるのが取得価額の考え方である。国税庁FAQ(問1-5)は暗号資産の取得価額を取得方法別に整理しており、購入・自己発行・贈与・相続のいずれにも当たらない「上記以外の場合」は、その取得時点の価額(時価)が取得価額になるとしている。給与として役務の対価で受け取った暗号資産はこの類型に当たるため、取得価額=受領(支給)時の時価となる。
これは先ほど給与収入として円換算した金額と一致する。前掲の設例なら、時価50,000円で受け取った暗号資産の取得価額は50,000円だ。その後この暗号資産を70,000円で売却すれば、差額20,000円が譲渡益となり、これは事業に付随する場合などを除き原則として雑所得・総合課税として、給与とは別に確定申告の対象になる(暗号資産の売却・使用による利益は原則雑所得。詳細は 暗号資産(仮想通貨)と税金 を参照)。
整理すると、次の2段階だ。
- 受領時:支給時の時価が給与収入(給与所得)として認識され、源泉徴収の対象になる。
- 売却・使用時:受領時の時価を取得価額として、売却価額との差額が譲渡損益(原則 雑所得)として認識される。
なお、受け取った暗号資産を売らずに保有し続けているだけなら、含み益・含み損は課税されない。あくまで売却・使用(商品購入や他の暗号資産との交換を含む)が課税の引き金になる。

税理士の視点で読み解く
源泉徴収の実務は「円換算の記録」が生命線になる。 給与として支給した暗号資産は支給時の時価で源泉徴収し、受け取る側はその同じ時価が将来の売却時の取得価額になる。したがって支払者側には、給与明細や支払記録に暗号資産の数量と支給時の円換算額を併記しておく実務対応が強く求められる。この記録が欠けると、従業員が後日売却したときに取得価額を立証できず、売却価額の全額が利益とみなされかねない。
現物給与としての評価とはいえ、暗号資産は「支給時の時価」で明快に評価できる点が食事や社宅と異なる。 一般の現物給与は経済的利益の評価に幅があるが、暗号資産は市場価格があるため評価は比較的単純だ。ただし、どの取引所・どの時点のレートを採用するかという実務裁量は残る。外貨建て給与の円換算(原則として支払日の電信売買相場の仲値等による)に準じ、支給日のレートで一貫して換算するのが穏当だろう。
従業員給与での暗号資産払いは、労基法の壁ゆえに日本では依然として稀である。 デジタル払い解禁後も暗号資産は賃金支払いの対象外であり、正社員の給与を暗号資産で支払うのは労働法上リスクが高い。現実に論点化しやすいのは、労働者性の弱い役員への支給や、労基法の賃金規制が及ばない業務委託報酬のケースだ。この場合でも税務上の帰属は所得区分によって変わる。従業員が労務の対価として受け取れば給与所得、フリーランスが役務の対価として受け取れば事業所得または雑所得となり、いずれも受領時の時価で収入計上し、その額が取得価額になるという2段階の構造は共通する。
制度は流動的だ。 暗号資産の売却益は現行では雑所得・総合課税だが、分離課税への移行が政府・与党で継続的に議論されている(暗号資産(仮想通貨)と税金 に整理)。仮に売却益の課税方式が変われば、受領時の給与課税は変わらなくても、売却時(第2段階)の税負担は将来的に変わりうる。
実務家のアクション
- 支払者(会社):暗号資産で給与・報酬を支給する場合は、支給時の時価を円換算し、現金分と合算して源泉徴収税額を計算する。給与明細・支払調書に暗号資産の数量と支給時円換算額を必ず併記する。
- 支払者(会社):従業員給与での暗号資産払いは労基法の通貨払いの原則に抵触しうるため、社会保険労務士と連携し、支給対象者の労働者性・支給形態を事前に確認する。
- 受領者:受け取った暗号資産の支給時時価(=取得価額)を必ず記録・保存する。後で売却・使用したときの譲渡損益計算の基礎になる。
- 受領者:受け取った暗号資産を売却・使用したら、給与所得とは別に譲渡損益(原則 雑所得)の確定申告が必要になる。計算方法は 暗号資産の損益計算 を参照する。
- 支給形態が役員報酬・業務委託報酬に及ぶ場合は所得区分の判定が別途必要になるため、税理士に個別確認する。
出典
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」問5-1 暗号資産による給与等の支払、問1-5 暗号資産の取得価額(国税庁 暗号資産関係ページ)
- 労働基準法24条(賃金の支払)/労働基準法施行規則の改正による賃金のデジタル払い(厚生労働省)
- 日本労働組合総連合会(連合)「賃金の通貨払いについて」(jtuc-rengo.or.jp)