国際税務

海外に住む親族の持株が命運を分ける――外国子会社合算税制の「特殊関係非居住者」を条文から読み解く

税務・会計のWeb情報誌Profession Journal(PROnet)で連載中の〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&Aの第42回として、「外国子会社合算税制における特殊関係非居住者」が取り上げられました。同連載は第28回「個人に係る外国子会社合算税制」などの回で公認会計士・税理士の霞晴久氏が判例・裁決例を素材に国際税務の論点を解説してきたシリーズで、2026年1月には清文社から書籍『判例・裁決例からみた 国際税務Q&A』としてまとめられ、第5章「外国子会社合算税制」だけで14項目が収録されています。「特殊関係非居住者」は外国子会社合算税制(いわゆるタックスヘイブン対策税制)の適用の入口である「外国関係会社」判定を左右する概念でありながら、実務家の間でも意識が薄くなりがちな論点です。なお、起点記事の全文は会員限定で確認できないため、本稿ではこの論点そのものを条文と公的資料に基づいて深掘りします。

背景と全体像

外国子会社合算税制は、軽課税国の子会社等に所得を留保して税負担を不当に軽減する行為を防ぐため、昭和53年(1978年)に創設された制度です。PwC Japanグループの用語解説は、一定の条件に該当する外国子会社の所得を日本の株主の所得とみなして合算課税する仕組みであると説明しています。

その後、BEPSプロジェクトの「外国子会社の経済実態に即して課税すべき」という考え方を踏まえ、平成29年度に大規模な改正が行われました。国税庁の「外国子会社合算税制に関するQ&A(平成29年度改正関係等)」は、改正前は租税負担割合20%以上なら実体がなくても適用されない一方、20%未満なら実体ある事業でも合算され得るという制度の歪みが見直しの動機だったと述べています。また税理士法人山田&パートナーズの改正解説は、この改正で外国関係会社の範囲や納税義務者の定義そのものが再構築されたことを指摘しています。

制度適用の第一関門が「外国関係会社」該当性の判定であり、ここで登場するのが本稿の主役「特殊関係非居住者」です。

詳細解説

租税特別措置法66条の6第2項1号イは、外国関係会社を「居住者及び内国法人並びに特殊関係非居住者(居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある…非居住者をいう。)及びロに掲げる外国法人(…「居住者等株主等」という。)」が、株式等・議決権・配当請求権のいずれかで50%超を直接・間接に保有する外国法人と定義しています(ロは居住者・内国法人と実質支配関係がある外国法人)。つまり50%超の判定では、日本の居住者・内国法人だけでなく、一定の非居住者の持分まで分子に取り込むのです。

その範囲は租税特別措置法施行令39条の14の2第1項が定めており、同施行令39条の14第6項1号イ~ヘに掲げる者、具体的には次のとおりです(e-Gov法令検索で条文を確認しました)。

  • イ:居住者の親族
  • ロ:居住者と事実上婚姻関係と同様の事情にある者
  • ハ:居住者の使用人
  • ニ:イ~ハ以外で居住者から受ける金銭その他の資産によって生計を維持している者
  • ホ:ロ~ニに掲げる者と生計を一にするこれらの者の親族
  • ヘ:内国法人の役員及び当該役員に係る法人税法施行令72条各号に掲げる者

ここで重要なのは、判定と課税の非対称性です。特殊関係非居住者の持分は外国関係会社の「判定」には算入されますが、合算課税の納税義務を負うのは、措置法66条の6第1項各号に掲げる内国法人(保有割合10%以上の法人、実質支配関係のある法人、10%以上を保有する同族株主グループに属する法人など。個人の居住者については措置法40条の4に並行規定)に限られます。非居住者自身は課税されません。BUSINESS LAWYERSの解説も、判定には特殊関係非居住者の保有割合を含める一方、合算されるのは居住者・内国法人の持分に応じた部分であると整理しています。

典型例を挙げます。シンガポール法人の株式を、日本居住者の父が5%、シンガポール在住の子が95%保有しているとします。子は「居住者(父)の親族」である非居住者なので特殊関係非居住者に該当し、両者合計100%で外国関係会社に該当します。父は単独では10%未満ですが、措置法66条の6第1項4号(個人は40条の4の並行規定)の「同族株主グループ」には政令で定める特殊の関係のある者が含まれるため、グループ全体で10%以上となり、父は自己の5%持分に応じた合算課税を受け得ることになります。仮に特殊関係非居住者という概念がなければ、株式の大半を海外の親族名義に移すだけで制度の適用を免れてしまうわけで、この規定は名義分散による回避を封じるための装置と考えられます。

平成29年度改正はこの網をさらに強化しました。押方移転価格会計事務所の解説は、間接保有割合の計算が従来の掛け算方式から「50%超の株式保有の連鎖」方式に変更されたことを指摘しています。また前掲の山田&パートナーズの解説によれば、持分がなくても「実質支配関係」があれば外国関係会社とされる類型が新設され、株式を完全に手放しつつ支配を残すスキームにも対応が図られています。

論点と異なる見方

第一に、範囲の広さをめぐる評価です。施行令の文言上、特殊関係非居住者となるのは「居住者の親族」等であり、その居住者自身が当該外国法人の株主であることは要件とされていません。文言どおり読めば、日本に親族が住んでいるだけで、海外起業家が100%保有する現地法人も形式的には外国関係会社に該当し得ます。もっとも、納税義務者の側で「10%以上を保有する居住者・内国法人等」に絞られるため、日本側に株主がいなければ現実の合算課税は生じず、実害は限定的だという整理が可能です。この判定と課税の二段構えをどう評価するかは、制度の簡素化を求める立場と、回避防止の網を広く張るべきだとする立場で見方が分かれるところでしょう。

第二に、争訟の蓄積の偏りです。国税不服審判所の公表裁決事例にはタックスヘイブン対策税制のカテゴリが設けられていますが、公表事例の多くは適用除外基準(現・経済活動基準)や租税負担割合をめぐるものです。前掲のProfession Journal連載も、租税条約との関係、来料加工、事業基準、実体基準・管理支配基準といった論点を各回で扱ってきました。特殊関係非居住者そのものが正面から争われた公表事例は今回の調査では確認できず、だからこそ実務家の意識から漏れやすい論点だと私は見ています。

第三に、制度全体の見直し議論との関係です。経済産業省の国際課税制度に関する研究会資料(令和6年11月)では、グローバル・ミニマム課税導入後の外国子会社合算税制のあり方が検討課題とされています。企業実務の負担軽減が主眼ですが、個人・同族会社ルートの判定規定である特殊関係非居住者の枠組みにまで見直しが及ぶかは現時点では不透明です。

実務への影響と留意点

税理士・会計事務所としては、次の対応が必要と考えられます。

  1. 外国法人の株主構成の棚卸し:関与先が絡む外国法人について、非居住者株主の中に「日本の居住者の親族・使用人等」がいないかを確認し、50%超判定を居住者・内国法人分だけで行っていないか点検することが第一歩です。
  2. 家族の居住ステータス変動の追跡:海外移住や帰国により、同じ資本構成でも外国関係会社該当性は変わります。移住・帰国のタイミングでは合算課税の判定をやり直すべきでしょう。
  3. 同族株主グループでの10%判定:単独持分が小さくても、特殊の関係のある者を含むグループで10%以上なら納税義務者になり得ます。少数持分だから無関係、という思い込みは危険です。
  4. 書類の収集・保存体制:東京共同会計事務所のコラムが指摘するとおり、外国関係会社に係る書類等の収集・整備・保存は申告実務の前提であり、租税負担割合や経済活動基準の検討資料とあわせて毎期整えておく必要があります。

私の見解

特殊関係非居住者は、条文の階層(措置法→施行令→別条項の準用)を三段掘らないと全体像が見えない、典型的な「知らないと踏む」規定だと私は考えています。とりわけ近年は富裕層の海外移住や海外資産管理会社の組成が珍しくなくなり、家族の一部だけが日本に残るケースで本規定が突然効いてくる場面が増えているように感じます。公表された判例・裁決例が乏しい論点を正面から取り上げた今回の連載第42回は、その意味で実務的価値が高いでしょう。グローバル・ミニマム課税時代の制度見直し論議が進んでも、個人・同族会社ルートの回避防止という本規定の役割はむしろ残ると私は見ています。顧問先に海外法人があれば、まず株主名簿と家族の居住地の突合から始めるべきです。

出典

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