税務 × AI

Big4は「会計事務所」からAI企業へ——4社合計2,200億ドルの決算とAI投資、その光と影を税理士の視点で読む

スペインのIEユニバーシティが、Big4(Deloitte・PwC・EY・KPMG)の事業内容とキャリアを解説する記事を公開しています。同記事はBig4の2025年の合計売上を2,190億ドルと紹介し、監査・税務にとどまらずコンサルティングやテクノロジーサービスへ事業が拡大していることを指摘しています。私がこの記事を取り上げるのは、キャリア解説の体裁を取りながら、その裏付けとなる各社の決算発表を並べると「税務・会計の巨人がAI企業化している」構図がはっきり見えるためです。Big4の動きは数年遅れで日本の税理士業界の標準になってきた歴史があり、国内の会計事務所にとって他人事ではないと考えられます。

Big4のAI企業化:光と影

背景と全体像

Big4は世界最大の会計事務所ネットワーク4社の総称で、日本ではデロイト トーマツ、PwC Japan、EY新日本、あずさ(KPMG)の各監査法人と、対応する税理士法人がこれに当たります。ムービンの解説が整理しているとおり、国内のBig4税理士法人も国際税務・移転価格・M&A・組織再編など、グローバル案件を軸にサービスを展開しています。

直近の各社決算を一次情報で確認すると、規模感は次のとおりです。

  • Deloitteの発表によれば、FY2025(2025年5月期)のグローバル売上は705億ドル(現地通貨ベースで前年比4.8%増)、人員は47万人超で、業界で初めて700億ドルの大台を超えました。
  • PwCの発表は、FY2025(2025年6月期)の売上を過去最高の569億ドル(同2.7%増)とし、AI能力の拡張に約15億ドルを投資したことを明らかにしています。
  • EYの発表によれば、FY2025(2025年6月期)の売上は532億ドル(同4.0%増)で、サービスライン別では税務が5.5%増と最も高い伸びを示しました。
  • KPMGの発表は、FY2025(2025年9月期)の売上を398億ドル(同5.1%増)とし、税務・法務部門が7.5%増と全部門で最高の成長率だったと述べています。

4社合計は約2,200億ドルに達し、IEの記事の数字とも整合します。注目すべきは、DeloitteもEYもKPMGも、成長ドライバーとして一様にAIを挙げている点です。

詳細解説

各社のAI投資は、もはや実験段階ではなく本業の再定義に踏み込んでいます。The Finance Storyの集計によれば、Big4のAI投資の公表額だけで40億ドルを超えます。内訳として、KPMGはMicrosoftとの提携を含め5年間で20億ドル、EYは14億ドルを投じてAIプラットフォーム「EY.ai」を構築、PwCは米国で3年間10億ドルを生成AIに投資すると報じられています。

投資は具体的な数字にも表れ始めています。EYは前述の決算発表で、AI関連収入がFY2025に前年比30%成長したと述べています。KPMGも税務・法務部門の高成長について「AIを組み込んだマネージドサービスと変革支援への需要」が牽引したと説明しています。Bloomberg Taxの報道は、Big4が企業のバックオフィス業務を丸ごと請け負う複数年契約に軸足を移しており、数年内にコンサルティング収入の2割を占め得ると指摘しています。つまり「助言して終わり」ではなく、AIで武装した自社が顧客の経理・税務機能そのものを運用するモデルへの転換です。

税務実務の観点で見逃せないのは、この構造では申告書作成や記帳といった従来の下請け的業務がAIとオフショアに吸収され、人間の付加価値が「AIの成果物への保証・レビュー」と「判断業務」に寄っていくことです。実際、Big4はAI保証(AI assurance)サービスの開発を急いでいると報じられています。

論点と異なる見方

もっとも、順風満帆という評価ばかりではありません。第一に、品質リスクです。2025年10月、Deloitteオーストラリアが豪州政府に納品した約29万米ドルの報告書に、生成AIによる架空の文献引用や存在しない判例が含まれていたことが発覚し、同社が一部返金に応じたとFortuneOECD.AIのインシデント記録が報じています。CFO Diveの分析は、この事案を企業財務全体への警鐘と位置づけています。AIを売り込む当事者が、AIの検証不足で信頼を毀損した象徴的な事例と言えます。

第二に、人材育成への影響です。BM Magazineによれば、英国のBig4の新卒求人は2025年に前年比44%減少しました。Fortuneは、PwC英国トップが経済環境とAIを背景にエントリーレベル職の削減を認めたと報じています。一方でFiledの論考は「AIは会計士を置き換えているのではなく、若手を一人前に育てるための仕事を置き換えている」と指摘しており、数年後のシニア人材の供給が細るという業界構造上の懸念が語られています。IEの記事がBig4を「多様な入口のある魅力的なキャリア」と描くのとは対照的に、入口そのものが狭まりつつあるという見方が並存しているわけです。

実務への影響と留意点

日本の税理士・会計事務所にとって、私は次の対応が現実的だと考えています。

  1. AIレビュー体制の整備: デロイト豪州の事案は、生成AIの成果物を無検証で納品することの代償を示しました。事務所として「AIが作成した文書の引用・条文・数値は必ず原典に当たる」チェックリストを明文化すべきでしょう。
  2. 付加価値の再定義: Big4の税務部門の成長が「AI組み込み型サービス」で牽引されている以上、単純な申告書作成の価格競争は激化すると見ています。判断・交渉・意思決定支援へ業務の重心を移す準備が必要です。
  3. 若手育成の設計変更: 定型業務で育てる従来型OJTは、AIが定型業務を吸収するほど機能しなくなります。AIの出力を批判的に検証させる訓練を、意識的に育成カリキュラムへ組み込むことが求められます。
  4. AI保証という新市場の注視: Big4がAI保証サービスを開発しているのと同様、中小企業のAI利用に対する第三者チェックは、中堅事務所にも降りてくる新業務になり得ます。

私の見解

私は、Big4の2025年決算とAI投資の一致ぶりを見て、税務・会計業界の競争軸が「人月」から「AI基盤の質」へ移る転換点が来たと受け止めています。ただし、デロイト豪州の返金事案が示すとおり、AIの導入スピードと品質管理の成熟度には明確なギャップがあり、当面は「AIを使いながら疑える」実務家の価値がむしろ上がるでしょう。新卒採用の縮小は、5〜10年後に経験豊富な中堅層の希少化という形で跳ね返ると予想しています。日本の中小事務所にとっては、Big4の背中を追うのではなく、AIで浮いた時間を顧客との対話と判断業務に振り向けた事務所が生き残ると考えられます。

出典

もしこの記事が参考になりましたら、Xアカウント(@ash_ai_tax)もフォローしていただけると嬉しいです。

NEWSLETTER · 週1

税務 × AI を、構造で捉える。

海外Tax Techと生成AIの実務動向を、一次情報に当たって税理士が読み解く。送客のためではなく、あなたの判断のために。

いつでも1クリックで解除できます。広告・営業メールは送りません。


← 記事一覧に戻る