役員報酬をビットコインなどの暗号資産で支給したい——そんな相談は稀にあるが、実際に設計すると法人側で大きな落とし穴がある。役員給与は要件を満たさないと一円も損金にならず、しかも暗号資産は時価が刻々と動くため、損金算入の中心要件である「定期同額給与」の判定がきわめて難しい。本稿は法人側の損金算入に焦点を絞る。報酬を受け取る個人側の課税は姉妹記事「ビットコインによる給与払いと所得税」に、暗号資産課税の全体像は「暗号資産(仮想通貨)と税金」に委ねる。
役員給与が損金になる3類型
大前提として、役員に対する給与は原則損金不算入であり、法人税法上の一定の類型に当てはまるものだけが例外的に損金算入を認められる。従業員の給料と違い「払えば費用になる」わけではない。これは、役員報酬の決定に経営者の恣意が入りやすく、期中に報酬を動かして利益調整(=租税回避)に使われることを防ぐためだ。
損金算入が認められる役員給与は、次の3類型に限られる(法人税法34条)。
- 定期同額給与:支給時期が1か月以下の一定期間ごとで、各支給時期の支給額が同額であるもの。いわゆる毎月同額の役員報酬。改定は原則として事業年度開始から3か月以内の定時改定などに限られる
- 事前確定届出給与:所定の時期に確定額を支給する旨をあらかじめ定め、原則として株主総会決議日から1か月を経過する日と会計期間開始から4か月を経過する日のいずれか早い日までに、所轄税務署長へ届け出たもの。役員賞与を損金にしたい場合の受け皿
- 業績連動給与:同族会社以外の法人(上場会社など)が業務執行役員に支給する、利益等の指標に連動する給与。算定方法の客観性・開示など要件が厳しく、非同族の同族会社を除きほぼ上場会社限定
平成29年度税制改正で従来の「利益連動給与」は「業績連動給与」に改組された。旧タックスアンサーの「利益連動給与」表記は現行では業績連動給与を指す。
暗号資産による役員報酬を考える場合、③の業績連動給与は事実上オーナー企業では使えず、②の事前確定届出給与は「賞与」的な一時支給の設計になる。したがって、毎月の役員報酬を暗号資産で払うなら、まず①定期同額給与の要件を満たせるかが最大の論点になる。
暗号資産支給は「定期同額」の判定が難所
定期同額給与の要件は「各支給時期における支給額が同額であること」だ。ここで決定的に効いてくるのが、現物給与の評価は支給時の時価で行うという原則である。暗号資産で給与を支払った場合、その経済的利益は支給時の暗号資産の価額で評価され、給与所得の収入金額に算入される(国税庁FAQ)。つまり法人にとっての「支給額」は、渡した暗号資産の数量ではなく、支給時点の円換算額で捉えられる。
ここから2つの設計を検討すると、どちらも問題を抱える。
設計A:数量を固定する(毎月1BTCを支給)。暗号資産ベースでは毎月同額だが、時価が変動するため円換算の支給額は月ごとに40万円だったり60万円だったりと動く。支給額は支給時の時価で評価される以上、円ベースでは同額にならず、定期同額給与の要件を満たさないリスクが高い。旧稿では「条文は円建て同額とは書いていないからBTC建て同額でよい」と論じていたが、現物給与を時価評価する現行の取扱いに照らすと、この解釈は採りにくい。
設計B:円換算額を固定する(毎月50万円相当の暗号資産を支給)。円ベースでは同額になり定期同額の要件には近づく。しかし今度は実務が壁になる。支給する数量を支給日の時価で逆算する必要があるが、どの時点のレート(振込時刻か、支給日始値か終値か)を使うかを社内規程で確定し、かつ端数まで50万円ちょうどに合わせ込む運用が要る。給与計算の締め日時点ではレートが確定しないため、支給日ぴったりに1円単位で揃えるのは容易でない。使用レートを合理的に定め、支給額が同額と評価できる運用を貫けるかが分かれ目になる。
要するに、暗号資産で毎月の役員報酬を払うなら、「円建てで同額」を貫ける支給ルールを事前に規程化し、その円建て額に見合う数量を支給時レートで渡す設計(設計B寄り)が、定期同額給与の要件との整合上は現実的だ。数量固定(設計A)は損金不算入リスクを抱える。

法人側にも譲渡損益が生じうる
見落とされがちなのが、法人が保有する暗号資産を役員に引き渡す行為自体が、法人側で暗号資産の譲渡として課税されうる点だ。法人が暗号資産を給与として渡すと、支給時の時価で給与(損金候補)を計上する一方、その暗号資産の取得原価(帳簿価額)との差額が譲渡損益として益金または損金に算入される。
たとえば1BTCを80万円で取得していた法人が、時価100万円のときに役員報酬としてそのBTCを渡すと、支給額100万円が給与(損金算入の可否は前章の要件次第)となる一方、100万円−80万円=20万円の譲渡益が法人に生じる。譲渡原価の計算は移動平均法または総平均法(法人が選定しなければ移動平均法)による。
つまり暗号資産による役員報酬は、「役員給与の損金算入」と「保有暗号資産の譲渡損益」という2つの課税イベントが同時に走る。含み益のある暗号資産を報酬に充てれば、その含み益は支給の瞬間に実現して課税される。
税理士の視点——現物給与評価・源泉・設計の難しさ
第一に、源泉徴収は円で納付する。暗号資産分も含めた給与総額(現金分+暗号資産の支給時時価)を基礎に源泉徴収税額を計算し、その税額は日本円で納付しなければならない。全額を暗号資産で払うと源泉税を納める原資が別途必要になるため、実務上は報酬の一部を現金、残りを暗号資産とする設計が前提になる。国税庁FAQの設例も、現金20万円+暗号資産(時価5万円)=25万円を課税標準として源泉徴収する形を示している。
第二に、労働基準法の通貨払い原則は役員には直接及ばない点は押さえたい。賃金の通貨払い原則(労基法24条)は労働者の賃金に関するルールであり、委任関係にある役員の報酬は原則としてその対象外だ。したがって「役員報酬を暗号資産で払えるか」は、労基法ではなく法人税法の損金算入要件と源泉徴収の問題に帰着する(使用人兼務役員の使用人分給与など、労働者性が問われる部分は別途検討を要する)。
第三に、そもそも設計難度に見合うメリットが薄い。定期同額の維持、使用レートの規程化、源泉税の円手当て、支給ごとの譲渡損益計算、価格変動リスクの負担——これらを踏まえると、暗号資産による役員報酬は現状きわめて限定的な選択肢だ。「暗号資産で報酬を受け取りたい」という役員の希望に応えるなら、報酬は円で確定・支給し、受け取った本人が任意に暗号資産を購入するほうが、税務上の論点をはるかに単純にできる。制度が暗号資産報酬を前提に整備されているわけではない以上、無理に現物支給スキームを組む必要性は乏しい。
なお本稿は一般的な情報提供であり、個別の役員報酬設計の可否は、支給規程・使用レート・保有暗号資産の状況によって結論が変わる。実行前に必ず顧問税理士と設計を詰めてほしい。
実務家のアクション
- 暗号資産で毎月の役員報酬を払うなら、円建てで同額となる支給ルールを株主総会議事録・報酬規程に明記し、数量固定(毎月◯BTC)は避ける
- 使用する時価レート(基準となる取引所・時点)を規程で一義的に確定し、支給ごとに記録を残す
- 源泉徴収税額は暗号資産分を含めた総額で計算し、円で納付できる原資を必ず確保する(一部現金支給が実務前提)
- 支給に充てる暗号資産の帳簿価額を把握し、支給のつど生じる譲渡損益を計上する。含み益がある暗号資産を充てると支給時に課税される
- 賞与的に一時支給したい場合は事前確定届出給与を検討し、届出期限(決議日から1か月・会計期間開始から4か月のいずれか早い日)を厳守する
- 受け取る役員側の所得税処理は「ビットコインによる給与払いと所得税」、暗号資産課税全般は「暗号資産(仮想通貨)と税金」を参照する
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.5210「役員に対する給与」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5210.htm
- 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023012-176.pdf
- 法人税法34条(役員給与の損金不算入)