「日本の法人税は高いのか?」——この記事を最初に書いた2017年、答えは迷わず「高い」でした。当時の比較表では米国(カリフォルニア州)が40.75%、フランスが33.33%で、日本の29.97%は主要国3位の高さ。政府は引き下げに躍起で、世界中が法人税率を下げ合う時代でした。
9年経った2026年、順位も前提もまるごと変わりました。米国は27.98%まで下がり、日本は主要国2位に「浮上」。そして何より、15%のグローバル・ミニマム課税の登場で「引き下げ競争」というゲームそのものが終わりました。本記事は2026年の最新データで全面改稿しています。
法定実効税率とは何か
ニュースで「法人実効税率」と呼ばれるものの正式な呼び名は法定実効税率です。
法人が所得に対して負担する税金は、国税の法人税だけではありません。地方法人税、法人住民税、法人事業税(+特別法人事業税)が同じ所得に重なって課されます。これらを合算し、事業税が損金算入される(=課税所得を減らす)効果まで調整して1本の率に均したものが法定実効税率です。
単純化した計算式は次のとおりです。
法定実効税率 ={法人税率 ×(1 + 地方法人税率 + 住民税率)+ 事業税率等}÷(1 + 事業税率等)
ポイントは2つあります。
- 「理論値」である:税率表を前提に機械的に計算した率であり、個々の会社の実際の税負担率ではない。租税特別措置(賃上げ促進税制・研究開発税制など)を使えば、実際の負担率はこれより低くなる
- 「標準税率ベース」である:日本の29.74%は標準税率での計算。外形標準課税の対象となる大法人・東京都ベースでは約30.6%になる
2026年の国際比較——日本は「2位」に浮上した
財務省「諸外国における法人実効税率の比較」(2026年1月現在)の主要国の数字です。
| 国 | 法人実効税率 |
|---|---|
| ドイツ | 30.14% |
| 日本 | 29.74% |
| 米国(カリフォルニア州) | 27.98% |
| カナダ(オンタリオ州) | 26.50% |
| フランス | 25.00% |
| 英国 | 25.00% |
| イタリア | 24.00% |

2017年版の記事と見比べると、この9年の地殻変動がよくわかります。
- 米国:40.75% → 27.98%。2017年末のトランプ税制改革(TCJA)で連邦法人税率が35%から21%へ一気に引き下げられた
- フランス:33.33% → 25.00%。段階的引き下げを完遂
- 英国:逆に19%から25%へ引き上げ(2023年)。引き下げ競争の「底」を打った象徴的な動き
- 日本:29.97% → 29.74%(2018年度〜)でほぼ不変。動かなかった結果、相対的に「2位」へ浮上した
さらに日本では防衛特別法人税が2026年4月1日以後開始事業年度から施行され、課税対象に該当する場合の実効税率は30.64%に上がります。財務省の比較図が29.74%のままなのは、この付加税が「一般的に広く課される税率」ではないため(基準法人税額500万円以下は実質対象外)ですが、一定規模以上の法人にとっては実質的な法人税負担の引き上げが現実になります。この新税の中身を次に整理します。
防衛特別法人税で何が変わるか
防衛特別法人税は、2025年度(令和7年度)税制改正で創設され、2026年4月1日以後に開始する事業年度から課される新しい国税です。防衛力強化の財源確保を目的とした「付加税」で、既存の法人税額に上乗せする形をとります。
計算の骨格はシンプルです。
防衛特別法人税額 =(基準法人税額 − 基礎控除 500万円)× 4%
要点は3つあります。
- ベースは「基準法人税額」:外国税額控除や所得税額控除などの税額控除を差し引く前の法人税額が基準になる。所得ベースではなく法人税額ベースの上乗せである点に注意
- 年500万円の基礎控除で中小の多くは対象外:基準法人税額から500万円を控除するため、基準法人税額が500万円以下なら課税額はゼロ。法人税率23.2%で逆算すると、おおむね課税所得2,000万円台前半までの法人は実質的に負担が生じない
- 税額がゼロでも申告は必要:課税額が発生しない法人でも申告書に防衛特別法人税の欄が加わる。零申告が求められる点は実務上の見落としに注意
実効税率への影響は、対象法人で29.74%→30.64%(+約0.9ポイント)。外形標準課税の対象となる東京都の大法人ベース(約30.6%)で見れば、実質的に31%台へ乗る計算になります。

引き下げ競争はなぜ終わったのか
各国が法人税率を下げ合ったのは、企業誘致・流出防止の競争でした。しかし行き着く先は「底辺への競争(race to the bottom)」——どの国も税収を削り合うだけで、勝者は税率の低い国に利益を付け替えられる多国籍企業だけ、という構図です。
これに終止符を打ったのが、OECD/G20の合意によるグローバル・ミニマム課税(第2の柱/Pillar 2)です。世界中どこで稼いでも最低15%は課税されるという「床」ができたことで、税率を15%未満に下げて企業を誘致するインセンティブが消滅しました。英国の税率引き上げ、そして日本の防衛特別法人税も、「もう下げ競争に付き合う必要がない」という新しい前提の上にあります。
制度の詳細は別記事「グローバル・ミニマム課税、2026年4月から『第2段階』へ」で解説していますが、ここで重要なのは、このミニマム課税が「実効税率」という言葉にもう一つの意味を持ち込んだことです。
もう一つの実効税率——「GloBE実効税率」
グローバル・ミニマム課税の世界で使われる「実効税率」は、法定実効税率とは別物です。
| 法定実効税率 | GloBE実効税率 | |
|---|---|---|
| 何を測るか | 税率表から計算した理論値 | 実際の税負担の実績値 |
| 計算のベース | 各税目の法定税率 | 連結財務諸表ベースの利益と税金費用(調整後) |
| 計算の単位 | 国・地域の税制ごと | 多国籍企業グループの国・地域別 |
| 使われる場面 | 税制の国際比較・投資判断の目安 | 15%未満かどうかの判定→上乗せ(トップアップ)課税 |
日本の法定実効税率は29.74%ですが、ある日本企業グループの日本におけるGloBE実効税率が29.74%になるわけではありません。租税特別措置による税額控除や、会計と税務の差異によって、実績としての負担率は法定税率より大きく下がり得ます。GloBE実効税率はその「実績」を国別に計算し、15%を下回った国があれば差額を親会社等に課税する——これがミニマム課税の仕組みです。
つまり2026年の実務では、「実効税率」と聞いたらどちらの意味かをまず確認する必要があります。ニュースの文脈では法定実効税率、Pillar 2の文脈ではGloBE実効税率です。
実務家のアクション
- 「税率の安い国に子会社を」という相談への答えを更新する:15%フロアの存在で、低税率国のメリットは大幅に目減りした。誘致優遇(タックスホリデー等)もミニマム課税で相殺され得ることを説明できるようにしておく
- 防衛特別法人税の影響を織り込む:2026年4月以後開始事業年度から、基準法人税額(500万円控除後)の4%。対象規模の顧問先には決算・納税予測、税効果会計で使う実効税率の変更への対応を
- 「実効税率」の使い分けを社内・顧問先と揃える:経理部門とのやり取りで法定実効税率とGloBE実効税率の混線が起きやすい。どちらの話をしているかを常に明示する
- 租特の適用と実際の負担率を把握する:大規模グループでは、税額控除で実際の負担率が下がることがGloBE実効税率の計算に跳ね返る局面がある
出典
- 財務省「諸外国における法人実効税率の比較」(2026年1月現在)
- 財務省「法人課税に関する基本的な資料」
- 国税庁「令和7年度 法人税関係法令の改正の概要」(防衛特別法人税の創設)
- 財務省「令和7年度税制改正の解説」(防衛特別法人税の創設)
注意 当記事は2026年7月26日時点の法令・公表資料に基づいています。税制改正等により取り扱いが変わる可能性があるため、実際の適用にあたっては最新の法令・条約をご確認ください。