「グローバル・ミニマム課税はうちの顧問先には関係ない」——多くの税理士がそう思っているはずですし、直接の納税義務という意味では概ね正しい認識です。それでも2026年のいま、この制度を「説明できる」状態にしておくべき理由があります。今年は適用の第2段階入り・初回申告期限の到来・米国の適用除外という3つの動きが一度に起きた、制度開始以来最大の節目だからです。
何が起きたのか
2026年に集中している動きは3つあります。
第一に、日本で「第2段階」の課税が始まりました。 グローバル・ミニマム課税の3つのルールのうち、日本は所得合算ルール(IIR)を2024年4月1日以後開始事業年度から先行適用してきましたが、令和7年度税制改正(2025年3月31日成立)で残る2つ——国内ミニマム課税(QDMTT)と軽課税所得ルール(UTPR)が、2026年4月1日以後開始事業年度から適用されています。3月決算の対象企業グループは、いままさに施行初年度の中にいます。
第二に、初回のGloBE情報申告(GIR)の提出期限が到来しています。 GloBE情報申告は各対象会計年度終了から15ヶ月以内(初年度は18ヶ月以内)に提出が必要です。IIR初年度分の期限は、12月決算グループで2026年6月30日(既に経過)、3月決算グループで2026年9月30日。制度が「法律の話」から「申告実務の話」に変わったのが今年です。
第三に、米国が事実上の適用除外になりました。 2025年6月のG7合意を受け、OECD包摂的枠組みは2026年1月5日に「サイドバイサイド」パッケージを公表。米国を親会社とする多国籍企業グループは、セーフハーバーの選択によりIIRとUTPRの適用から外れることになりました(各国のQDMTTは引き続き適用されます)。米国は既にOECDの中央記録に「適格サイドバイサイド制度」として登録済みで、2026年1月1日発効です。

制度の骨格——3つのルールと750M€基準
グローバル・ミニマム課税(Pillar 2/GloBEルール)の骨格を整理します。対象は、直前4対象会計年度のうち2以上で連結総収入金額7億5,000万ユーロ相当(約1,200億円)以上の多国籍企業グループです。
グループの国・地域ごとに「GloBE実効税率」(連結財務データをベースに調整計算した実際の税負担率。法定実効税率とは別概念です。詳しくは法人実効税率の国際比較【2026年版】を参照)を計算し、15%を下回る国があれば、その差額(トップアップ税額)を誰かが課税する——その「誰が課税するか」の優先順位を決めるのが3つのルールです。
- QDMTT(国内ミニマム課税):軽課税になっている国自身が、自国分の上乗せ税額を先に課税する。日本では「国内最低課税額に対する法人税」として2026年4月〜
- IIR(所得合算ルール):QDMTTで拾われなかった分を、親会社の国が課税する。日本では2024年4月〜適用済み
- UTPR(軽課税所得ルール):IIRでも拾えない分(親会社の国が未導入の場合など)を、グループ会社が所在する国が課税する。日本では2026年4月〜
QDMTT→IIR→UTPRの順で「取りこぼしを次が拾う」多層構造になっており、UTPRまで揃った2026年から、制度は設計上の完成形に達したことになります。
背景——「歴史的合意」から米国除外までの5年
2021年、約140の国・地域が15%のミニマム課税に合意したとき、これは「100年に一度の国際課税改革」と呼ばれました。各国が法人税率を下げ合う「底辺への競争」に床を張る試みで、日本を含む各国が国内法制化を進めてきました。
流れが変わったのは2025年です。米国政権はGloBEルールが自国の税制主権と衝突すると反発し、報復課税条項までちらつかせた末に、2025年6月、G7が「米国は自国の制度(GILTI等のミニマム課税)で並走する」というサイドバイサイド方式で折り合いました。これを制度に落とし込んだのが2026年1月のOECDパッケージです。
注意すべきは、これが「米国系は全部無関係になった」という話ではないことです。
- サイドバイサイドのセーフハーバーが効くのは2026年開始会計年度から。2024年・2025年分について、米国系グループは原則どおりGloBEルールの適用対象で、申告義務も残っています
- 米国系グループも、進出先の国のQDMTTは引き続き適用されます
- 現時点で適格サイドバイサイド制度と認められたのは米国のみですが、他国が同様の扱いを求める道も開かれており、制度が「15%の単一フロア」から「複数制度の並走」へ変質していく入口になり得ます
「フロアは維持されたが、二重基準になった」——これが2026年時点の到達点に対する率直な評価だと考えています。日本企業グループにはフル適用が続く一方、米国系は自国ルールで並走する。この非対称は、日本の産業界から不公平だという声が出て当然の構図で、今後の国際交渉の火種として残ります。
税理士の視点で読み解く——「大企業だけの話」で終わらない理由
直接の適用対象は連結収入約1,200億円以上のグループですから、中小事務所の顧問先が納税義務者になることはまずありません。それでも実務が波及するルートが3つあります。
①顧問先が「対象グループの一員」であるケース。 顧問先自身は中堅・中小でも、資本をたどると大手グループの子会社・孫会社、あるいは外資系企業の日本子会社ということは珍しくありません。QDMTTとIIRの計算には日本にあるすべてのグループ構成会社のデータが必要で、GloBE情報申告は国・地域別に数百項目に及びます。親会社の税務部門やBig4から、会計データ・税務データの提供依頼が顧問先の経理に降ってくる——そのとき「これは何のための依頼か」を説明し、対応の交通整理をするのは顧問税理士の仕事になります。
②「税額ゼロでも手続きはある」パターン。 GloBE実効税率が15%以上で追加税額が出ない場合でも、対象グループである限り情報申告や届出の義務は残ります。「払う税金がないなら何もしなくていい」という感覚のまま放置されるリスクは、制度の認知が薄い層ほど高くなります。
③制度を「説明できる」こと自体が信頼になる。 顧問先の社長がニュースで「ミニマム課税」「米国除外」を目にして質問してきたとき、正確な輪郭を3分で説明できるかどうか。国際税務は専門外の税理士にとっても、この制度は法人税の風景を変えた基礎教養になりつつあります。少なくとも「15%の床ができた」「税率の安い国に逃げる時代は終わった」という2点は、海外進出相談への標準的な回答に組み込むべきです。
なお、実効税率の「引き下げ競争の終焉」という文脈は、法人実効税率の国際比較【2026年版】で図解つきで整理しています。
実務家のアクション
- 顧問先の資本系列を一度たどる:究極の親会社はどこか、そのグループの連結総収入は750M€(約1,200億円)を超えるか。超えるなら、顧問先はグローバル・ミニマム課税の「構成事業体」である
- 外資系日本子会社の顧問先は役割分担を確認する:QDMTT・GIR対応を親会社側・Big4側・顧問税理士側の誰がどこまで持つのか。データ提供依頼への窓口を決めておく
- 3月決算グループの初回GIR期限(2026年9月30日)を意識する:対象グループの関係者から相談が来たら、まず期限とセーフハーバー(移行期CbCRセーフハーバー等)の適用可否から確認する
- 米国系グループは「2024・2025年分はフル適用」に注意:サイドバイサイドは2026年から。過年度分の申告義務を除外と誤解しないこと
- 一次情報の定点観測先を持つ:国税庁のQ&A、OECDの公表文書、Big4のアラート。この制度は運用ガイダンスが今も更新され続けている
出典
- EY税理士法人「グローバル・ミニマム課税に関する令和7年度税制改正が施行(UTPR・QDMTT)」
- PwC税理士法人「グローバル・ミニマム課税に係る実務対応ガイド」
- Grant Thornton “OECD side-by-side Pillar 2 deal: Relief for U.S. multinationals”
- Debevoise & Plimpton “OECD Releases Pillar Two Guidance Introducing Side-by-Side Exemption for U.S. Multinationals and New Safe Harbors”
注意 当記事は2026年7月25日時点の法令・公表資料に基づいています。グローバル・ミニマム課税は運用ガイダンスの更新が続いている領域であり、実際の適用にあたっては最新の法令・ガイダンスをご確認ください。