Google、Apple、Amazon——日本に進出する米国大手IT企業の日本法人が、株式会社ではなく「合同会社」であることに気づいた実務家は多い。この選択の背後には、米国のチェック・ザ・ボックス規則という課税上の分類選択制度がある。本稿では、この制度の仕組みと、米国LLCが日本の税務では原則「外国法人」として扱われることによる日米のズレを、国際税務の視点で整理する。米国事業体への出資や、米国親会社を持つ日本子会社の税務に関わる場面で判断の土台になる論点である。
チェック・ザ・ボックス規則とは(米国の課税分類選択)
チェック・ザ・ボックス規則(Check-the-Box Regulations)は、1996年に米国財務省規則(Treas. Reg. §301.7701-1〜3)として整備された、事業体の連邦税務上の分類を選択できる制度である。事業体は、次の3つの課税区分のいずれかで扱われる。
- 法人課税(corporation):事業体レベルで法人税が課される(いわゆるC-corp)
- パートナーシップ課税:構成員2人以上の場合。事業体では課税されず、損益が構成員に帰属する
- ディスレガーデッド・エンティティ(disregarded entity):構成員1人の場合。税務上、事業体の存在が無視され、構成員の一部門として扱われる
パートナーシップ課税とディスレガーデッド・エンティティは、いずれも事業体では課税せず構成員に損益を帰属させるパススルー課税(構成員課税)である。
分類の選択は、原則としてIRSのForm 8832(Entity Classification Election)を提出して行う。提出しない場合はデフォルト分類が適用され、米国の国内事業体であれば、複数構成員のLLCはパートナーシップ、単一構成員のLLCはディスレガーデッド・エンティティが初期値となる。
ここで実務上重要なのが、規則が選択の余地を認めない「per se corporation(当然に法人扱いされる外国事業体)」を限定列挙している点である(Treas. Reg. §301.7701-2(b)(8))。このリストには日本の「株式会社(Kabushiki-Kaisha)」が含まれる。したがって、米国企業の日本子会社が株式会社であれば米国税務上は当然に法人課税となり、パススルーの選択余地はない。一方、リストにない合同会社(LLC)は「適格事業体(eligible entity)」であり、Form 8832によって法人課税かパススルー課税かを選択できる。これが「なぜ合同会社なのか」の出発点である。
なお、外国の適格事業体のデフォルト分類は米国内事業体と異なる。全構成員が有限責任なら法人課税、1人でも無限責任の構成員がいればパートナーシップ(構成員1人なら無視)がデフォルトとなる。日本の合同会社は社員全員が有限責任のため、放置すれば米国側では法人課税がデフォルトであり、パススルーを取りに行くには積極的な選択(Form 8832)が必要になる点は押さえておきたい。
米国LLCは日本の税務でどう扱われるか(外国法人/国税庁見解と裁判例)
ここが日本の実務家にとっての核心である。米国LLCが米国で法人課税・パススルー課税のいずれを選択したかにかかわらず、日本の税務上は原則として「外国法人(内国法人以外の法人)」として扱う——これが国税庁の公表見解(質疑応答事例「米国LLCに係る税務上の取扱い」)である。
国税庁は、その理由として米国LLC法(統一LLC法)上の次の法的特性を挙げる。
- 事業体の設立に伴い商号等の登録が行われること
- 事業体自らが訴訟当事者等の法的主体になれること
- 「LLCは構成員(member)と別個の法的実体(a legal entity)である」と規定されていること
これらから、米国LLCは日本の私法上「外国法人」に該当するため、米国側でパススルーを選ぼうとも日本では法人として扱う、という結論になる。国税庁はニューヨーク州LLCの法人該当性が争われた裁判例(さいたま地判平成19年5月16日・東京高判平成19年10月10日)を参照として掲げており、いずれも当該LLCを日本の租税法上の法人に該当すると判断している。
関連してしばしば混同されるのが、米国デラウェア州LPS事件の最高裁判決(最判平成27年7月17日、民集69巻5号1253頁)である。これはLLCではなくリミテッド・パートナーシップ(LPS)の法人該当性が争われた事案で、個人がデラウェア州LPSを通じて米国不動産賃貸を行い、減価償却で生じた損失を給与所得等と損益通算した申告が否認されたものだ。最高裁は、外国事業体が日本の租税法上の法人に該当するかを、(1)設立準拠法上、日本法の法人に相当する法的地位が付与されているかをまず検討し、それが不明な場合に(2)権利義務の帰属主体と認められるか、という枠組みで判定し、当該LPSを日本の租税法上の「法人」に該当すると判断した。LPSに関する判決だが、外国事業体の法人該当性を判定する一般的な枠組みを最高裁が示した点で、LLCの取扱いを考えるうえでも参照される。
いずれにせよ、米国LLCについては国税庁見解・下級審裁判例を通じて「日本では外国法人扱い」という実務が定着している。
何が問題になるか(日米のズレ・二重課税・外国税額控除)
問題の本質は、同一の事業体を米国はパススルー(構成員課税)、日本は外国法人(事業体課税)と、正反対に位置づけ得る点にある。この分類の食い違いが、二重課税や課税のタイミングのズレを生む。

典型例が、日本の居住者・内国法人が米国LLCに出資し、そのLLCが米国でパススルー課税を選択しているケースだ。米国では所得がその年に構成員(日本の出資者)へ帰属し課税される。ところが日本では、LLCは外国法人であり、日本の出資者への課税は原則としてLLCから配当を受け取った時点まで待つ。つまり、米国では出資者段階で即時課税、日本では配当時課税となり、課税年度がずれる。
このズレは外国税額控除(FTC)にも波及する。日本の出資者が米国で払った税は、日本側で対応する所得が認識される年に対応しなければ、外国税額控除で拾いきれず二重課税が残るおそれがある。米国側で毎期パススルー課税を受けても、日本側で配当がなければ控除の相手方となる日本の税額が立たない、という不整合が起こり得る。国税庁の質疑応答も、外国税額控除の適用可能性に触れつつ、個別事情によって課税関係が異なり得ることを注記している。
なお、米国親会社・日本子会社(合同会社)という逆方向の構図では、米国親会社が日本子会社の損益を米国側で取り込む(パススルー)が、日本での課税は従来どおり日本で完結する。ここで米国側に生じる二重課税は、米国の外国税額控除で調整されるのが基本構造である。
税理士の視点(実務上の注意・GAFAが使う理由)
GAFAが日本で合同会社を選ぶ狙いは、米国側でパススルー課税を選べる柔軟性にある。国内法上のメリット(設立コスト・定款認証不要・決算公告義務なし・機動的な意思決定)も無視できないが、株式会社ではper se corporationとして選択の余地が封じられる一方、合同会社なら米国親会社が日本子会社を米国税務上どう位置づけるかを設計できる。かつては、事業実態のない中間持株会社と実態のある日本子会社を米国税務上「一体の事業体」とみなさせ、米国のCFC税制(サブパートF所得)の合算対象から外す、といったストラクチャーの余地も指摘されてきた。
ただし、この「税務メリット」は2017年の米国税制改正(TCJA)以降、大きく削られている点を強調しておきたい。TCJAはGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)を導入し、米国株主のCFCの低課税所得を毎期合算する仕組みを作った。パススルーやチェック・ザ・ボックスで合算を先送り・回避する余地は、GILTIの網によって大幅に狭まっている。さらに、GILTIは2025年成立のOBBBAにより2026年開始事業年度からNCTI(Net CFC Tested Income)へ改組され、Section 250控除の縮小(50%→40%、実効税率の目安10.5%→12.6%)、QBAI控除の廃止、間接外国税額控除のヘアカット強化(80%→90%)など、合算・控除の両面で締め付けが進む見込みである。したがって、「合同会社にすれば節税」という理解は現行制度では慎重に扱うべきであり、過去の書籍・解説の結論をそのまま当てはめるのは危うい。
日本の実務家として押さえるべきは、次の非対称だ。日本から見れば米国LLCは外国法人(配当時課税・タックスヘイブン対策税制の対象になり得る)、米国から見れば同じLLCがパススルーになり得る。この非対称を放置すると、外国税額控除のミスマッチや、想定外の二重課税を招く。日本のタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)やグローバル・ミニマム課税といった別レイヤーの規制も同時にかかるため、単体の事業体分類だけで有利不利を論じることはできない。個人の米国不動産投資でLLC・LPSを使う場合の損益通算可否は、上記の最高裁枠組みが直接効いてくる論点であり、安易な損失取り込みは否認リスクを伴う。
実務家のアクション
- 米国事業体への出資・設立の相談を受けたら、まず米国側の分類(Form 8832の選択・デフォルト分類)と日本側の取扱い(外国法人か)を別々に確認する。両者は連動しない
- LLCなのか、LPSなのか、per se corporation(KK等)なのか、事業体の種類を正確に特定する。取扱いと参照すべき判例が変わる
- 米国でパススルー選択済みのLLCへの出資は、日本側の課税タイミング(配当時課税)と外国税額控除のミスマッチを試算し、二重課税の残余を見積もる
- 米国親会社×日本子会社の設計では、GILTI改めNCTI・BEAT・OBBBA後の間接FTCヘアカットの影響を前提に、過去の「節税」前提を更新する(施行前の改正は「見込み」として扱う)
- 個人の米国不動産スキーム(LLC/LPS経由の損失通算)は、最判平成27年7月17日の判断枠組みに照らして否認リスクを事前評価する
- 日米租税条約・タックスヘイブン対策税制・グローバル・ミニマム課税との重ね合わせで最終判断する。個別事案は現地カウンセルとの連携を前提に
出典
- 国税庁 質疑応答事例「米国LLCに係る税務上の取扱い」
- 最判平成27年7月17日(民集69巻5号1253頁)米国デラウェア州LPS事件(プロフェッションジャーナル 解説)
- IRS「About Form 8832, Entity Classification Election」/Treas. Reg. §301.7701-1〜3
- Bloomberg Tax「How to Calculate GILTI Tax (Now NCTI) on Foreign Earnings」(OBBBAによるGILTI→NCTI改組)