給与明細を見て「なぜこの金額が天引きされているのか」を説明できる会社員は多くありません。源泉徴収と年末調整で納税が完結してしまうぶん、自分の所得税がどう計算されているかを意識する機会がないためです。この記事では、給与収入から所得税額が決まるまでの流れを、2025年(令和7年)改正を反映して基礎から整理します。年収1,000万円のような具体的な手取り試算は姉妹記事年収1,000万円の税金はいくらかに譲り、ここでは計算の全体像(仕組み)に集中します。
給与所得者の税金はどう計算されるか(計算の流れ)
所得税は「収入」そのものではなく、「所得」に対してかかります。給与所得者の場合、税額は次の順序で決まります。
- 給与収入(額面の年収)から給与所得控除を差し引いて、給与所得を求める
- 給与所得から所得控除(基礎控除・配偶者控除・扶養控除・社会保険料控除・生命保険料控除など)を差し引いて、課税所得を求める
- 課税所得に累進税率(5〜45%)を掛け、税額控除があれば差し引いて、所得税を求める
- 所得税に復興特別所得税(所得税額の2.1%)を上乗せする
この4段階を1本の縦の流れとしてイメージできると、控除がどこで効くのかが整理できます。給与所得控除は「収入から所得を出す段階」、基礎控除などの所得控除は「所得から課税所得を出す段階」で効き、両者は差し引く場所が違います。ここを混同すると「103万円の壁」などの理解が崩れるため、まず段階の違いを押さえてください。

なお、住民税(おおむね所得割10%)は所得税とは別に、前年の所得をもとに翌年度課税されます。本記事は所得税を中心に扱います。
給与所得控除とは(速算表・2025改正で65万円に)
給与所得控除は、給与収入に対する概算の必要経費です。自営業者が実際に支出した経費(実額)を差し引くのに対し、給与所得者は個々の経費を積み上げず、収入額に応じてあらかじめ定められた金額を一律に差し引きます。スーツ代や通勤にかかる自己負担などを一つひとつ計算する必要がない代わりに、金額は法律で決まっています。
2025年(令和7年)改正で、給与所得控除の最低保障額が55万円から65万円に引き上げられました。現行(令和7年分)の速算表は次のとおりです。
| 給与収入(年収) | 給与所得控除額 |
|---|---|
| 190万円まで | 65万円(最低保障) |
| 190万円超〜360万円 | 収入×30%+8万円 |
| 360万円超〜660万円 | 収入×20%+44万円 |
| 660万円超〜850万円 | 収入×10%+110万円 |
| 850万円超 | 195万円(上限) |
給与所得控除には上限195万円があり、年収850万円を超えると控除額は増えません(850万円×10%+110万円=195万円が上限に一致します)。高年収層ほど、収入の増加に対して控除の伸びが頭打ちになる設計です。この改正は令和7年12月1日に施行され、令和7年分の所得税から適用されます。
給与収入から給与所得控除を引いた金額が「給与所得」です。たとえば年収500万円なら、控除額は500万円×20%+44万円=144万円、給与所得は356万円となります。
所得控除と課税所得(基礎控除・年収の壁の見直し)
給与所得が出たら、次に所得控除を差し引きます。所得控除は納税者の事情に応じた負担調整で、主なものに以下があります。
- 基礎控除:すべての人(合計所得金額に応じ段階的)
- 社会保険料控除:健康保険・厚生年金・雇用保険などの本人負担分(全額)
- 配偶者控除・配偶者特別控除:配偶者の所得に応じて
- 扶養控除:扶養親族に応じて
- 生命保険料控除・地震保険料控除:支払保険料に応じて
- 医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税):支出に応じて
基礎控除も2025年改正で引き上げられました。従来は一律48万円(合計所得2,400万円以下)でしたが、改正後は合計所得金額に応じて段階化され、たとえば合計所得132万円以下では95万円に拡大しています(中間の所得層には時限的な上乗せがあります)。
この給与所得控除と基礎控除の引き上げが、いわゆる「年収の壁」を動かしました。従来は「給与所得控除55万円+基礎控除48万円=103万円」までが所得税のかからないラインでしたが、改正後は「給与所得控除65万円+基礎控除95万円=160万円」まで所得税がかからなくなり、「103万円の壁」は「160万円の壁」に置き換わりました。あわせて、大学生年代(19歳以上23歳未満)の子をもつ親向けに特定親族特別控除が新設され、子の給与収入150万円までは親が63万円の控除を満額受けられます。壁の全体像は年収の壁2026まとめで詳しく整理しています。
給与所得から所得控除を引いた残りが課税所得です。ここに税率がかかります。
課税所得に対する所得税の税率は、5%から45%までの7段階の累進税率です。速算表は次のとおりで、控除額を使って一発で計算できます(所得税額=課税所得×税率−控除額)。
| 課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円未満 | 5% | 0円 |
| 195万〜330万円未満 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万〜695万円未満 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万〜900万円未満 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万〜1,800万円未満 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万〜4,000万円未満 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
累進税率は「所得全体に高い税率がかかる」のではなく、超えた部分にだけ高い税率がかかる仕組みです。課税所得が330万円を1円超えても、税負担が急増するわけではありません。こうして求めた所得税に、税額控除(住宅ローン控除など)があれば差し引き、最後に復興特別所得税(所得税額の2.1%/2037年分まで)を上乗せしたものが、その年の所得税額になります。
源泉徴収と年末調整
給与所得者の所得税は、毎月の給与から源泉徴収という形で天引きされ、勤務先が本人に代わって国に納めています。毎月の天引き額は、扶養親族の数などをもとにした概算です。そのため年間の給与が確定する年末に、正確な税額と天引き合計との差額を精算します。これが年末調整です。
年末調整では、勤務先に提出する各種申告書を通じて、基礎控除・配偶者控除・扶養控除・生命保険料控除・社会保険料控除・住宅ローン控除(2年目以降)などが反映されます。多くの会社員が確定申告をしなくても納税が完結するのは、この源泉徴収と年末調整の仕組みがあるためです。裏を返せば、年末調整で扱えない控除は自分で確定申告しない限り反映されません。
税理士の視点
年末調整は便利な仕組みですが、「勤務先が全部やってくれる」という受け身の姿勢が、控除の取りこぼしを生みます。会社員でも確定申告をすると得をする(還付を受けられる)代表的なケースは次のとおりです。
- 医療費控除:年間の医療費が高額だった年(年末調整では扱えない)
- ふるさと納税:ワンストップ特例を使わなかった、または6自治体以上に寄附した場合
- 住宅ローン控除の1年目:初年度は確定申告が必須(2年目以降は年末調整で可)
- 年の途中で退職し年末調整を受けていない場合の還付
- 特定支出控除:資格取得費・単身赴任の帰宅旅費などが給与所得控除額の2分の1を超える場合(適用例は限られます)
一方で、確定申告が必要になるケースもあります。給与の年収が2,000万円を超える人、給与以外の所得(副業・不動産・株式の一部など)が20万円を超える人、2か所以上から給与を受けている人などです。「会社員は申告不要」は原則であって例外があります。
制度論として一点補足します。旧記事では「給与所得控除は概算経費として手厚く、サラリーマンは優遇されている」という趣旨を強調していました。給与所得控除が概算経費であることは事実ですが、近年の改正では上限195万円が設けられ、高年収層では控除が頭打ちになっています。2025年改正でも最低保障(65万円)と基礎控除の引き上げは低・中所得層に手厚い一方、給与所得控除そのものの上限は据え置きです。「優遇されているかどうか」は年収帯や世帯構成によって大きく異なり、一律には語れません。自分の税額を正しく把握するには、上の計算の流れに実際の数字を当てはめて確認するのが確実です。年収1,000万円のケースでの具体的な試算は年収1,000万円の税金はいくらかを参照してください。所得控除を増やす手段としてiDeCo・企業型DCの節税も検討の価値があります。
アクション
- 手元の源泉徴収票で「支払金額(給与収入)」「給与所得控除後の金額」「所得控除の額の合計額」「源泉徴収税額」を確認し、上の4段階に当てはめてみる
- 医療費・ふるさと納税・住宅ローン控除1年目に該当する年は、確定申告で還付を受けられないか確認する
- 副業や2か所給与がある場合は、確定申告が必要な要件(給与以外の所得20万円超など)に当たらないかチェックする
- 配偶者や子のパート・アルバイト収入がある世帯は、2025年改正後の「160万円」「150万円」のラインで年収の壁を再確認する
- 所得控除を増やしたい場合は、iDeCoや生命保険料控除など使える控除の余地がないか棚卸しする
出典
- 国税庁タックスアンサー No.1410 給与所得控除
- 国税庁タックスアンサー No.1199 基礎控除
- 国税庁タックスアンサー No.2260 所得税の税率
- 国税庁 令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について
- 国税庁タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人